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無料塾を知ろう【「無料塾に今、できること」レビュー】

文才ないなりに、いただいた本のレビューをします。

 

「無料塾に今、できること」(kindle版のみ)

https://www.amazon.co.jp/無料塾に今、できること-ともに学ぶ、ともに生きる!-日本非営利塾協会-ebook/dp/B083KG4Z6K/ref=sr_1_4?__mk_ja_JP=カタカナ&keywords=無料塾&qid=1579058477&sr=8-4

 

無料塾が存在する社会的な背景と、無料塾の果たしている役割について、専門的な方の知見やデータを適宜交えながら話しています。

 

ライターや編集を本業にしており、実際に無料塾の運営をしている方(中野よもぎ塾を運営している大西さん)が執筆しているため、

 

「他の無料塾にはどんなものがあるのか?」であったり、

貧困率の高いと言われている沖縄での学習支援の取り組みを取材していたり、

また実際に無料塾に関わるボランティアや生徒の声(よもぎ塾は5年間活動しているので、その5年分の思いがつまっていました)が載せられていたり、

運営方法やデータを取り上げるだけで現実離れしすぎたものとはならず、かといって具体的な話に注力するわけではなく、程よいバランスで語っているので、

 

無料塾を知る人知らない人にも読んで欲しい1冊となっています。(ここまでべた褒め)

 

そんなわけで、本の中身を紹介しつつ私自身の解釈を交えて、無料塾について説明していきたいと思います。

 

 

無料塾が必要とされる背景

こどもの貧困に関するデータ〜相対的貧困絶対的貧困

2017年の文部科学省全国学力・学習状況調査」にて、小学6年と中学3年の通塾率が調査されており、小学6年が46.3%、中学3年が61.2%となっております。

いまや受験のために「塾に通うかどうか」を選ぶことは当たり前の選択肢としてあります。しかし、データでは単純に100%から引いた数が塾に通っていないということを示しています。もちろん塾の通わなくても済むから通わない人もいますが、塾に通えなくても通えない人もいそうです。

平成30年度 全国学力・学習状況調査 報告書・調査結果資料:国立教育政策研究所 National Institute for Educational Policy Research

 

もう1つ、「相対的貧困」というものがあり、これが「こどもの貧困」問題の核となっています。

厚生労働省国民生活基礎調査によって、「こどもの6、7人に1人は貧困」という文言が2012年ごろから取り上げられるようになったそうです。

日本でも増え続ける「子どもの貧困」問題とは?貧困の原因、支援方法は? | gooddoマガジン|社会課題やSDGsに特化した情報メディア

 

ここで言われる「貧困」は、ご飯が食べられない、住む場所がない、服が買えないといった「絶対的な」貧困を示していません。

ここで言われる貧困は「世帯の可処分所得(収入から税金などを引いた実際に使える金)の1人あたりの額に対して中央値(お金持ちから順に並べて、全国の半分の順位にある人の値で、平均値ではないです)の半分より低い人」のことを指します。

その状態に位置しているこどもが13~16%存在しています。

この割合は世界的に見ても高いと言われているそうです。

 

収入が低くなる要因として、非正規雇用、ひとり親の増加、離婚後養育費を支払わない父親が多いことなどがあります。

 

ここでは以上2つのデータしか挙げませんが、当たり前ですが、ひとり親家庭の方が収入が低いこと、相対的貧困率の推移などが本の中では示されています。

 

その子供たちは果たして、当たり前の教育を享受できているのでしょうか?

こどもの貧困がもたらす結果

予想しやすいものとして「進学率」があります。内閣府が公表している、「平成30年度子供の貧困状況及び子供の貧困対策実施状況」において、全世帯とひとり親家庭での子供の高校大学の進学率が調査されており、

【高校】

ひとり親家庭 96.3%

全世帯 99.0%

【大学】

ひとり親家庭 58.5%

全世帯 72.9%

となっています。

 

(注)誤差が有意であるかどうかは考察する必要ありますが、ここでは触れないです。

 

また、「進学選択」もあります。当たり前ですが、高校は公立の方が安いですし、大学は国公立の方が安いです。それはたとえ無償化したとしてもです。文部科学省の「平成28年度子供の学習費調査」によると、全国平均で、公立高校は49,762円、私立高校は228,864円が設備費やPTA会費といった学校納付金にかかっているとあります。これは授業料以外の費用ですので、無償化しても変わらない現実です。

 

高校、大学ともに安く済むならよっぽどお金に困らない世帯を除き、そちらが良いに決まっています。その結果ますます「受験」が大切になってきそうです。

しかし、そこで「私立も行ける」選択肢を取れるかどうかは大切です。あまりこういう言い方をするのは良くないですが、高校入試で安全校を選ぶためにランクを下げるということが無料塾で教えていると毎年そういう場面に遭遇します。

 

「受験」で結果を出すには、「放課後学習」つまり塾に通っているかどうかがそれなりに重要になってくる…というわけです。

こどもの貧困の影響と認識されづらい現状

前章まではあくまで誰でも想像しやすいデータから状況を説明していきました。しかし、こどもの貧困問題はそこまで単純な話ではありません。そこを認識してもらうことを、本の中では随所に述べられています。(そんな意図なかったらすみません)

 

ここでは本の中で述べられている内容をいくつか分類して3つにまとめました。

 

1.「当たり前」ができないことで… いじめ・非行・不登校

例えば給食費、修学旅行費が払えないこと、部活には入れないこと…そういった人とは違う些細なこときっかけで、こどもはいじめ、不登校になったり、非行に走ったりします。

実際、私が運営する無料塾にも、いじめによって不登校になってしまった子が通っています。どこで当たり前のレールを外れてしまうのかは分かりませんが、そうなる可能性が高いというわけです

 

2.勉強する環境が家にない… 机がない・弟妹の世話・家事をしなければいけない

そもそも勉強するしないの前に勉強できない環境のこどもも無料塾には多くいます。本の中では、

「親が仕事で朝早いから、夜電気消すから、夜は勉強できない」

「高校卒業したら働いて欲しい」

「高校はバイトできるところがいい」

と勉強に対するモチベーションが環境によって下がってしまう例がいくつか挙げられています。

そんな中でも「勉強は大切」と言ってあげる必要があります。そこでさらに問題になるが以下の問題です。

 

3.経験(旅行・映画・芸術鑑賞・習い事)・関係性(地域・親戚の交流)が少ない

本の中では、社会学者である橋本健二先生が「文化資本」という言い方をしています。「文化資本」とは、それぞれの持つ家庭の文化がこどもに受け継がれるという考え方です。

家に本があるかどうか、親が勉強を教えてくれたかどうか、旅行、芸術鑑賞、地域交流のイベントなどに連れて行ったかどうか…

それらの経験が将来教育を受けるチャンスに大きな影響を与える…と説明しています。

 

この説明を聞いて私も腑に落ちた気がしました。

無料塾に来る人は、体感として、塾に比べると「やる気」のない子が多いですし、学習レベルが低い人が多いです。それは単純に「教育費が少ないから」だけではないはずです。

また、そう考えると、単純に「教育費を無償にすることで教育格差は解決するのか」という疑問が生まれます

 

「教育格差」「こどもの貧困」という問題は、以上挙げた3つの影響をまず認識していく必要があります。

それを踏まえた上で、次章で取り上げる具体的に無料塾の果たす役割を知っていく必要があります。

 

無料塾は「塾代のかからない」塾とは限らない

無料塾の果たす役割

前章の最後に取り上げた「教育費を無償にすることで教育格差は解決するのか」という疑問。その疑問を持たないまま、「教育費を下げる」「無料の学習塾を作る」「塾代補助をする」という施策を取ると、有効な一打にはなるかもしれませんが、教育格差の解決に繋がらない可能性があります。

 

一方で、無料塾は、教育格差、こどもの貧困の解決に繋がる可能性を秘めています。その理由を述べていきます。解決のキーワードは「社会的なコミュニティ」です。

 

(私自身は、地域コミュニティ作りがあらゆる社会課題を解決するという、胡散臭い団体やNPO、行政担当者をいくつも見ていて(もちろんそうではないものも沢山あります)、この言葉を使うのはあまり好きではないのですが、ここではその理由は伏せ、説明したいと思います。詳しい話はそのうち別に記事を書きます。)

 

無料塾が通常の塾とは異なることとして、

・教える人は社会人や学生などボランティアであること(有償の場合もあるが無償の場合の方が多い)

・教える人以外にも、「寄付金を送る人たち」「食材を提供する人たち」「食事を作ってくれる人たち」「場所を貸してくれる人たち」がいること

があります。

 

それによって、さまざな交流が生まれ、それが前章で取り上げたこどもの「文化資本」を増やし、将来の選択をする動機付けとなってくるわけです。

 

この考え方は、子供に低額で食事を提供する「こども食堂」でも使われています。しかし、はっきり言って「本当にこんなんで貧困問題解決するのかよ」と思いますよね。「胡散臭い」と思われるわけです。無料塾やこども食堂がまだ社会的に受け入れられていなかったり、批判されたりします。それは「貧困問題」がきちんと認識されていないからだと思っています。

 

この批判に反論する「客観的な」データは自分はないと思っています。ですが、実際に活動している人の思いを聞くことで体感してもらうことはできるはずです。

 

この本では、

実際に存在する無料塾にはどのようなものがあるのか?(第2章)

無料塾に関わってきた生徒とボランティアの声(第3章)

専門家から見た無料塾(第4章)

を通じて、無料塾の果たす役割について、より具体的に記されています。

以下、抜粋していきながら紹介していきたいと思います。

 

無料塾にはどのようなものがあるのか

ここで紹介されているものは、本業を持ちながら無料塾を掛け持ちして運営している人たちによって運営している団体です。

会社員によって運営されている、東海つばめ学習会や受験専門無料塾ミンゼミ、八王子つばめ塾、阪神つばめ学習会

地方公務員・町議会議員(行政の立場もやりつつ)によって運営されている、慈有塾やさなぎの杜

主婦によって運営されている、日野すみれ塾

教育系の映像授業を製作している会社によって運営されている、CAMEL無料塾

高校生によって運営されている、夕暮れ学級

などなど。

 

またやっている内容も様々で、

対象は「小学生」「中学生」「高校生」「学び直しを必要とする大人」であったり、

内容は、勉強を教えるだけでなく、合宿を行なったり、終わった後みんなでご飯を食べたり、サマーキャンプや集団授業を行ったり…。もちろん受験専門で勉強を教える団体もあったり…

します。

 

実際に自分が活動してきた、日野すみれ塾のことを少し話すと、

こちらでは、とにかく食べ物が沢山でます。活動場所が集合住宅の団地内にある集会室を使っており、キッチンがあるので、毎回ボランティアの方が軽食を作ってくれます。またそれが美味いんですよね。自分は実家離れていたので、自炊しても大したものは作らないので、味噌汁とか揚げ物とか、家では食べないものを手作りで食べられるのが幸せでした。

また、その食事の時間は生徒やボランティアと喋る貴重な時間でした。学校の給食みたいなものです。そういったところから生徒やボランティアと交流して関係性を築けていけました。

 

この関係性というのは大切で、大学では絶対に得られなかったものです。中学生小学生、大人の親戚以外の知り合いが、住んでいる地域に沢山いると楽しいですし、実家離れている身としてはその地域自体を好きになれます。また、それは大学卒業した今でも続いている関係なので、そういった関係性を持っているのは少し生活が豊かになった気がして良いものです。

 

無料塾が地域コミュニティとして機能することで

前章の最後で自分の体験を少し述べた通り、無料塾というのは、「単に無料で勉強を教えるだけの場所」ではないです。「地域コミュニティ」として色々活動したりする中で勉強も教える場所である、ということです。

 

地域コミュ二ティとして機能すると、生徒だけでなくボランティアにとっても有益なものとなります。いくつか本の中から抜粋して紹介します。

 

生徒

「勉強でわからないことを今までは1人で解決してきたが、わからないことを質問できて、苦手教科の克服や成績が上がった」

「勉強のやり方のアドバイスをもらえた」

「他の学校の友達ができた」

「教える人たちの職業や普段やっていること聞けるのが楽しかった」

「学校や家で相談できないことを相談できた」

 

ボランティア

「こどもが「わかった!」となるときの笑顔や、意欲的に取り組む姿勢を通じて、自分も前向きになれる」

「年代の違う様々なボランティアと仲良くなれた」

「入塾時と卒業時で、学習面以外にも人間面としての成長を感じられる」

「会社で疲れ切っていたところ、週末に子供やスタッフと会える楽しみができた」

 

単に無料版有料塾ではないことが、これらの言葉から伝わってきます。

 

無料塾の課題と展望

最後に無料塾の課題と展望について少し述べています。

まだまだ数が少ないこと…

ボランティアと生徒の調整に苦労していること…

全ての生徒を受け入れることができないこと…

 

などなど。

それらに対して、「交流」を通じて団体同士で協力しながら、それぞれの課題をうまく解決に導いていきたい

と述べています。

実際その通りで、私自身も、無料塾関係者の皆さんにはかなりお世話になっています。参考書をいただいたり、場所を貸してもらったり、運営のアドバイスをもらったり、愚痴を聞いてもらったり…笑

 

だけど、大切なことは、活動を通じて得られる「経験」「喜び」だと思っています。それがあるからこそ、「辞められない!」となるわけです。現に自分はそうです。無料塾活動を通じて、様々な人と交流が持てて、こどもの将来について時には真剣には議論したり、時には思いっきり遊びに行ったり、そういった関係を持てるようになったのが何よりも楽しいです。

そういった楽しさ、喜びが、本を読むと伝わってきました。

 

私も頑張ろうと思いました。

 

意見

以下、本読んで改めて思った自分の考えを述べていきます。

こどもの貧困を知ることの大切さ

目の前のデータ「貧困率」「進学率」だけにしか目を向けず、

お金を使って

「塾代補助」

「教育費補助」

「無償化」

「有料塾の代わりとなる無料学習支援」

などをすることで、教育格差の解決につながると思っている人がまだ多いと感じます。

 

それはこれらの施策に関わっていない人もいる人もです。

 

貧困問題、教育格差の問題の根幹は先述の通り見えづらいものです。それに対して、どのような行動を取るのが適切かを見極め、またいろんな支援団体を繋いで、一体となって子供を育てる仕組みを作ることが求められています。

 

解決すべき問題の軸は「貧困」とは限らない

無料塾が行っていることは、必ずしも「貧困問題」の解決にのみに突破口のあるものではないです。

 

たとえば、「若者の引きこもり」が問題化されているとします。どこで食い止めるかは分かりませんが、もし仮に無料塾のような団体でその方が学生時代を過ごしていたら、相談相手がいますし、少なくとも自分ならそういう生徒がいたらまず助けます。要は支え合える身近な大人がいるかどうかは、解決のためのピースとなってきます。

 

他にも、「不登校」の生徒は、引きこもり同様、必ずしも「貧困」だけがもたらすものではないです。そうなってしまった人に、社会と関わるきっかけの1つとして、無料塾が行っている取り組みは有効だと考えています。

 

ですので、自分は、

「教育」を通じて、貧困に限らず、社会に関わるきっかけ作りの場として

無料塾を運営していきたいと思っています。

 

その上で他の人にはできず自分にできることは…となったときに

得意分野である「高校生」の指導(高校生対象の無料塾はまだまだ少ない)

を団体としてはしていこうと思っています。

プラスして、小学生や中学生はボランティアしながらやっていけばいいかなと思います。

 

解決のキーワードは「楽しさ」

以上堅苦しいことを長々と話していきましたが、これらのことは無料塾を知る上では大切ですが、とりあえず活動してみてほしい!って言いたいですね。

めっちゃ楽しいです。

 

最近は受験前なので日々追われて大変ですが、合格したら、どんなお祝いしようとか、大学生なったらボランティア講師と皆でご飯食べにいきたいなとか、そんな楽しみが沢山あるので、やれています。

教え子と飲みに行けるのは良いものです。自分の活動やってよかった〜って思えるので。

 

以上レビューでした。

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